ある日、私の兄貴分で、ネタ元の一つでもあった谷本さんが覚醒剤営利目的所持の容疑で逮捕されてしまった。
私はそれを、携帯の電源が入っていない事で気付き、朝刊を調べたら案の定、記事になっていた。
私は、覚醒剤が欲しい時はいつもメールで
「1万円分お願い」
と注文していたのだが、毎回口を酸っぱくして
「このメールは読んだら削除してね」
と付け加えていた。
しかし、ズボラな谷本さんの事。
きっと削除していなかったのだろう。
谷本さんの逮捕から1ヶ月が過ぎた頃、珍しく覚醒剤を貸していたキメ友の男の子から
「借りてたネタ返すから」
とメールが来た。
家の前まで来ると言われて、着く頃を見計らって表通りまで出た。
その際、何気なく周りを見渡したら、遠く離れた所に人が立ってこちらを見ているのが見えた。
ガタイの良い男性で、見た瞬間「刑事だ」と感づいた。
しかし、目の前に覚醒剤が届くと言う事で、私は虫がわいていた。
あれは恐らく内偵だろう、まだ今ネタを射ってもガサ入れまで日にちはある、よし、最後の一発にしよう…。
そう考えを巡らせた。
その時、目の前にキメ友の車が到着した。
刑事からは見えない場所に移動して貰ってから、貸していた覚醒剤を受け取った。
すぐに車から降りて、歩いて家に帰った。
刑事が居た場所を見ると、誰も居なかった。
急ぎ足で家に入り、早速返して貰った覚醒剤を射った。
効き目で部屋を掃除し、洗濯を済ませた。
用心深い人なら、内偵をされていると気付いた時点で絶対に 覚醒剤を射ったりしないが、その時の私は切れ目で危機感が鈍っていた。
そして、その状態で覚醒剤を射ち、逆に気が大きくなってしまった。
まだガサ入れには当分来ないとタカを括ってしまった。
しかし、結果的に私のその予想は大きく外れる事になる。
覚醒剤を射ってからわずか2日後、ガサ入れは来てしまうのだった。
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内偵
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